GO AHEAD!! in FUKUOKA Dome Vol.2
嘉穂町の名菓・ブルーベリー羊羹。
もろに怪しい食べ物である。
羊羹とブルーベリー、そりゃイチゴ大福だってはじめはミスマッチだったと言われればそれまでだが、それでもぼくはこの組み合わせには、ひとかたならない不気味さを感じる。
はっきり言ってしまえば、食べたいとは思わない。
しかし、不思議なものである。そんな食べたいとは思わないものを、もらってしまった。
食べたいとは思わないものほど、なぜか人からもらうことが多い。
あー、喰いたいなあと思うものは、食べているメロンパンの端でさえ人はなかなかくれないのに、こんなのもらっても食べたいとは思わないというようなものほど、人はくれるのだ。
ブルーベリー羊羹を手にしたぼくは始末に困った。
食べたくはないけど、捨てるのはもったいない。捨てれば、くれた人の厚意を無駄にすることになるし、食べ物を捨てることに罪悪感もある。
どうしよう、どうしよう、と思っていたところでぼくに知恵を付けてくれる人がいた。
「ブルーベリーは目にいいらしいっすよ」
その人はぼくにそう言った。
そうか、なるほど、ブルーベリーってのは目にいいのか、そうかそうか、ならば野球を見に行ったときに食べれば、いいかもしれない!
というわけで、飲食物持ち込み禁止の福岡ドームでブルーベリー羊羹を食べてみることにした。
スタンドに入ると、ぼくはブルーベリー羊羹を開封し、膝の上に載せて写真を撮った。
グラウンドでは、ホークスの選手が守備練習をしている。人気選手に向かってフラッシュが飛び交っている。
その中でぼくは、膝の上に羊羹を載せて、下を向いてフラッシュを焚いた。ブルーベリー羊羹も怪しいけれど、ぼくも十分怪しい人である。
羊羹に混じっている黒いぶつぶつがブルーベリーらしい。
色的には、普通の羊羹だが(紫色の羊羹が出てきたら楽しいぞと内心思っていたので、ちょっとがっくり)、このぶつぶつが危険度を増している。
ぼくはtyuruに話しかけた。
「ねえ、知ってる? ブルーベリーって目にいいらしいよ」
「あ、そうらしねえ。それで?」
tyuruは、ぼくの膝の上のブルーベリー羊羹には目もくれない。ぼくは手にブルーベリー羊羹を持った。
「だから、これ食べてみない」
「え? 気持ち悪い。iwaさんが食べたら食べてもいいけど……」
うーん、そうくるかあ。
ぼくだって、こんなものいちばんに食べたくはないわい。やりたくないから人に押し付けてるのに、やってくれないとなるとどうしよう? と思ったところで、この日初登場のkanaが目に付いた。
kana野球好きである。ホークスの中でも好きな選手が何人かいる。しかも、この日はネット裏に陣取っている。kanaなら、せっかくネット裏にいるんだから目の調子をよくしたいと考えるかもしれない。
ぼくは今度は、ブルーベリー羊羹の包みを隠してkanaに話しかけた。
「ねえ、これさあ、目を良くする薬なんだけど、食べてみない? せっかくのネット裏だしね」
「え、本当?」
kanaは乗り気だ。ここは嘘を突き通してでも食べてもらおう。
「本当だよ。これ食べてたら、目の疲れとかも取れるらしいよ。ネット裏で見るんだから、目の調子はいいほうがいいでしょ」
「そうだね。ありがとう」
kanaはすんなり受け取った。そして、すぐに食べた。
kanaは普通に食べて、普通に食べ終わった。
ぼくは感想を聞いた。
「どうだった?」
「うん? おいしかったよ」
kanaは答えた。
そうかあ、さすがは名菓。と思ったところで、tyuruを呼んだ。
「kanaは普通に食べておいしかったと言ってたよ。食べてみなよ」
「あ、そうなの。わかった。食べてみるね」
ひとりがおいしいと言えば、安心して食べられるものなのだろうか?
あれほど拒絶していたtyuruだが、kanaが「おいしかった」と言っただけで、すんなり受け取った。
「おいしくなくもないね」
tyuruの一言めだ。
おいしいではない。おいしくなくもない。二重否定のややこしい表現である。
tyuruが訊いた。
「kei、これ本当においしかった?」
野球を見ているkeiはtyuruに振り返り、
「うん、薬にしてはおいしいんじゃない」
tyuruは驚いた顔でぼくを見た。
「薬?」
「え、それって薬でしょ。目が良くなる」
「はあ?」
「だって、iwaがさっき、そう言ってたじゃん」
「違う違う。これはブルーベリー羊羹っていうお菓子だよ」
今度はkeiが驚いた顔でぼくを見た。
「羊羹? お菓子? 嘘お! ちょっとどういうことなの?」
ぼくは女性ふたりのきつい視線を頬に浴びながら、説明をはじめた。
ブルーベリーは目にいいらしい。たぶんブルーベリー羊羹も目にいいはず。だから、目にいい食べ物としてkeiにブルーベリー羊羹をすすめた。とぼくは、しどろもどろに話した。
ふたりは納得してなかった。
「まあ、iwaさんはその程度の人間だからしようがないね。残りのブルーベリー羊羹、全部食べたら許してあげる」
と言うことで、残り全部はぼくが食べた。
味は、わめくほどまずくなかった。
羊羹にブルーベリージャムを混ぜた感じ、と言えば当たり前か。
羊羹を食べているかわいそうなぼく。食べながら、ぼくはこの日、二つの教訓を得た。
教訓1・「女に嘘をつくと、必ずしっぺ返しが来る」
教訓2・「羊羹を食べながら、ようかんはようかんで食べましょう、と言うととんでもない目にあう」