ひとつの愛が貫けない男


 男はひとつの愛を貫けない。
 別れる場合、このことが原因になることが多い。
 男というのは、非常にいい加減なものだ。
 結婚してからでも、飲み屋の女にメロンをあげたりしてしまうところがある。
 どうしても、ひとりの女性だけを好きでいることができない。
 ついつい、目移りしてしまう。恋人がいたとしても、その恋人とは違う(あるいは非常に似通った)魅力を持った女性を見るなり、「いいなあ」なんてため息をもらしてしまう。
 女性から見れば、どうして男はそんなに浮気性なんだ、と腹立だしく思われるかもしれない。
 だけど、ぼくは、人間とはもともとそういうもろさがあるものだと思う。
 本能的に、異性を求めてしまうのだから、しようがない。
 ただ、社会的モラルや規範によって、なかなかそれを表立って口にすることが出来ない。
 だって、一夫多妻制が認められている国の男性や猿山のボス猿を見てみてください。一度にたくさんの女を愛しているでしょう。だから、ぼくはひとりの女しか愛していない男は、意識的無意識的に関わらず、自分のそういう本能を抑圧しているのだと思う。
 男とはそういうもろいものなのだ。
 じゃあ、女性の場合はどうなんかいと訊かれそうだが、ぼくは女性にもそういう側面はあると思っている。
 ただし、男は日本でも昔はお殿様が正室、側室、腰元なんやかんやとたくさんの女房を持っていたという歴史があるのに対し、女性にはそういう歴史がない。
 卑弥呼が若い男をはべらかしていたとか、和宮が性のはけ口用にたくさんの男と関係を持ったなんて歴史がないのである。
 むしろ、女性は処女のまま一人の男と結婚し、その男とだけ関係を持つことが良しとされていた。
 だから、複数の異性を好きになってはいけないという抑圧が男性のそれより強いのだと思う。
 では、女性はどうやって性のはけ口を求めていたか、と考えると物語である。
 紫式部を読めばわかるように、女性は表だってはひとりの男を愛しても、心の底では見たこともないすてきな男性と突然恋に堕ちることを夢見て生きてきたのである。
 だから、女性の愛は重い。男が期待している以上にあふれている。冷静に「好きだ」という気持ちを抱える男と違い、それまでの物語で得た夢をも含んだ「好きよ」でぶつかってくるのだ。男としてはついつい腰が引けてしまう。
 そして、女性のたちが悪いところは母性を持っているところである。
 母性というのは、非常に美しいものだと考えられているが、見方を変えれば相手を保護することによって、相手を思い通りにしようとすることである。
 男性に、自分の夢の通りに行動することを強制しようとする。これはつらい。
 そして、男もバカだからはじめのほうは言うことを聞くが、だんだんと女性の要求が窮屈になってくる。しかも窮屈になった頃には、すでに何度も言うことを聞いてるので女性の要求は取り返しのつかないところまでエスカレートしている。それで、男が一度でも言うことを聞かないと「いままで聞いてくれてたのに? どうして?」と言われ、男はもっとやさしい女のほうに逃げていく。やさしい女のほうは、男が彼氏ではないので要求しないのでラクなのだ。もちろん、やさしい女も彼女になれば、それまでの彼女と同じようにいろいろといらぬ要求をつけてくるのだが。それで、そのやさしい女のことが彼女にバレてジ・エンド。
 男と女は結ばれないようにできていると思います。

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