アイデア商品を買ってみた
六月の第三日曜日は全国的に父の日だ。
この父の日の子供からのプレゼントの定番といえば「肩たたき券」。子供の頃はぼくもよく、表向きは父親への感謝の形として、腹の底では見返りとしてファミコンやラジコンを買ってもらうのを狙い、父の日に父親の肩をたたき、時にはもんだものである。
肩を叩くと、高卒の学のない父親は貧弱な語彙で「はー、極楽極楽」と温泉に浸かる老婆のようなことを言った。
まだオナニーも知らない、気持ちよさというものをアリの巣に熱湯を流し込むことぐらいでしか味わったことのない童貞少年だったぼくは、肩たたきをしながら、「はー、極楽極楽」とうめく父親を見て、ぼくもそういう気持ちよさを味わってみたいと思っていた。
そこで下級生に力ずくで肩をたたかせたが、変にじんじんするだけでまったく気持ちよくない。更にもませたら、やけにこそばゆくて、気持ちいいどころかいらいらしてしまい、うっかり下級生にエルボーをかましそうになってしまった。
下級生をいじめたことが問題になり、学校で担任の先生に怒られたときに、担任の先生があきれたようにぼくに言った。
「あのなあ、肩は大人にならないとこらないんだぞ」
肩は大人にならないとこらない、肩がこらないと肩たたきは気持ちよくない、つまり大人にならないと肩たたきの気持ちよさは味わえない。
酒にしろ、タバコにしろそうだが、どうして気持ちのよいものは大人にしか味あわせてくれないんだ! とぼくは震えた拳を握りしめた。
そしていつか大人になったときはめちゃくちゃすごい肩こりになってやるんだと大きな夢を抱いた。
それから十数年、二十歳になり大人になったぼくは、見事に夢を叶え、ひどい肩こり持ちになった。
どうやら普通の人より首が長く、姿勢が悪く、目が悪く、顔の目鼻立ちはいいが歯も悪いぼくは、肩こりになりやすいようである。
夢というものは、必ずしも叶ったからと言ってしあわせだとは限らない。
現在、ぼくは肩こりにひどく悩まされている。
おまけに肩をもんでくれる優しい人はまわりにはいないから(乳をもませてくれる優しい女性もまわりにはいないが)、「はー極楽極楽」の気持ちよさも味わえず困っていた。
そんな折り、たまたま迷い込んだ大型ショッピングセンターのアイデア商品フェアで素敵な商品を見つけたのだ。
まるでプロにマッサージされている気分、と書かれたその商品は、肩こり、首のこりをスッキリ解消してくれるらしい。
パッケージのモデルさんの商品装着前の肩こりに悩まされている顔と、装着後のキュートな笑顔の差を見て、この商品は本物だと思ったぼくは、迷わず購入した。
前置きが長いが、ここからが本題である。
とりあえず、装着してみました。
まるでプロにマッサージしてもらってるよう、なのかはマッサージに行ったことがないのでわかりません。
ただ、ワールドカップを見ながら使用はできました。
というわけで、この原稿はこれで終わりです。
実は、父の日はとっくに終わり、ワールドカップも終わりかけてる6月末にこの原稿をアップした理由は、オチが最後まで出てこなかったんです。
うー、ごめんなさい。