太宰治の『斜陽』ではこんなセリフが出てくる。
「おむすびが、どうしておいしいのだか、知っていますか。あれはね、人間の指で握りしめて作るからですよ」
うーん、いいアフォリズムですね。
だけど、これを読んで、「そうなんだ!」とひざ小僧をたたいた君はもう古い。
いまや、おにぎり(おむすびとおにぎりって同じもんだよね)は人間の指で握りしめて作るモノではない。
ザ・鈴木製の機械にお米を詰めて作るモノなのだ。
そこで、今回はこの機械で作られたおにぎりの耐久性を調べるべく、二カ月前のおにぎりを食べてみようと思った。
上の写真が今回kiriに食べてもらおうと思ったおにぎりの写真である。
写真がばかでかいのにはわけがある。
ラベルに張ってある日付に注目して欲しい。
製造日が10月13日で、消費期限が10月14日。実験当日は12月12日。
驚いたことに、ノリに巻かれた形は原型をとどめていた。触ればそのカタサからこのおにぎりが古いのはわかるが、見た感じでは今日、コンビニに並んでいる作りたてのおにぎりと変わらない。
それでもkiriはこのおにぎりを食べるのに抵抗を見せた。
「見かけが同じならいいだろう」
「でも、中身が違う」
「じゃあ、おまえは吉井和哉(kiriの好きな歌唄い)に中身が似た人間と、外見が似た人間、どちらを好きになるか」
「そりゃあ、たぶん外見が吉井さんのほうが気持ちが動くと思うけど」
「なら、外見が同じだからいいじゃねえか。とりあえず、喰え」
と強引になだめて、kiriにおにぎりの包装をほどかせる。
関係ないが、後ろで笑っているF嬢は、ぼくらの友人だが、彼女はkiriを見て笑っているのではないのであしからず。
悲壮感を顔に浮かべて試食するkiri。
どうでもいいことだがF嬢はiwaに見つかって巻き込まれることを避けているのか、見事に視線をぼくらから外している。
「噛めよ!」
「やだ!」
そんな押し問答が続いた後、kiriは半泣きになっておにぎりに歯を当てた。
本筋にはなんの影響もないが、F嬢は一緒に談笑していたM嬢とまるでこの写真の構図を狙っていたかのように、見事にkiriを挟んで笑っている。
「ダメ、固くて食べられない」
kiriが言った。
「おまえ、根性ないなあ。喰えよ」
ぼくはまるで他に恨みでもあるかのように怒鳴り散らした。
「じゃあ、iwaりん食べなよ」
思わぬkiriの切り返しにぼくは戸惑う。
「そ、それは……わかった。今回だけは断念を認めよう」
というわけで、まことに申し訳ないのだが、この実験はここで中止になった。
しかし、「二カ月前のおにぎりは食べられない」という結論を導き出したのだから、この実験に価値がなかったとは言えないだろう。
上の写真は、kiriが一回噛んで吐き出したおにぎりである。
「ノリは少し湿気てるぐらいで何ともなかったけど、ごはんが消しゴムみたいになっていて、文字通り歯が立たなかった」そうだ。
繰り返して言おう。
「二カ月前のおにぎりは食べられない」
だから、ぼくはゴーアヘッダーのみなさんに二カ月前のおにぎりは食べないことをお勧めする。
実験後、kiriが歯が立たなかったおにぎりを分解してみた。
ごはん粒は、わずかな湿気を含んでぷにょぷにょしていた。さわり心地がたしかに消しゴムだ。
具が腐敗に強い梅干しでありながら、二カ所が変色し、一カ所にはかびが生えていた。
かなりやばい。
ここまでやばいのなら、ぜひとも食べてほしかったなあと思うのだが、後の祭り。残念だ。