スパーム・ウオッチングをやってみる

      序文(めんどくさい方はこちらをクリックしてください)

 男の願いは、いつも「女にもてたい」である。
 女にもてるためならば、仕事に励み、趣味を極め、特技を増やす。男とはそうやって、女にもてるために日夜努力を惜しまないものだ。
 もっとも、例外はあるもので努力をしたがらない不精な男もいるが、そういう男でも大金を持って歓楽街に行き、飲み屋で擬似的に女にもてることを楽しんでいる。
 男はひたすらに女にもてたいのだ。
 では、もてる男とはどんな男なのだろう?
 思春期以降、男はどうすれば自分は女にもてるのだろうかと悩む。
 そして、床屋よりも美容室のほうがもてそうな気がするので美容室へ散髪に行ったり、スキーよりもスノボのほうがもてそうなのでスノボをはじめたり、洋服を買ったりカラオケのレパートリーを増やしたり小粋なジョークを言ってみたり、と試行錯誤をする。
 なぜなら、それはもてる男がどんな男かわからないからである。
 まわりを見て、こいつはもてるだろうという男は順当にもてているが、こいつはおれよりももてないだろうと思っている男が、意外に自分よりもはるかにもてていたりする。
 そういうことがあるから、あわよくば自分ももてないだろうかと男は下心丸出しの努力を繰り広げるのだ。
「スパーム・コンペティション」はそんな男の淡い期待を打ち砕く科学である。二〇世紀末、ロビン・ベイカーによって提唱され、日本では竹内久美子が紹介し、一大センセーショナルを巻き起こした。
「スパーム・コンペンティション(sperm competition)」とは直訳すると精子競争ということで、本来の意味はメスの膣の中に入ったときの精子の競争の事(詳しく正しく知りたい人は文春文庫から何冊も出てる竹内久美子の本を読んでください。iwaの説明は、iwa自身の理解力のなさのせいであてになりません)だか、一般的に話題になったのは、優秀なオスの遺伝子(すなわち精子)を欲しがるメスが、交尾の相手を決めるという事実である。
 つまり、動物はメスが交尾の相手を選ぶようになっている。
 そして、この選ぶ基準が、髪型やスノボや洋服ではなく、優秀な精子を持っているか否かということだ、と考えられるのだ。
 たとえば、クジャクのオスの羽には渦巻き模様がある。この渦巻きの数が多いクジャクほどメスにもてる。そして、この渦巻きの多いクジャクほど寄生虫に強い精子を持っており、睾丸も大きいと言われている。ツバメは尾っぽの長いオスほどメスにもてる。そして、尾っぽの長いツバメほど寄生虫に強い精子を持っているのだ。
 精子が強くなければもてない。どんなにおしゃれしようと気取ろう血のにじむ汗を流そうと、強い精子を持っていなければ、メスにはもてないのだ。
「スパーム・コンペティション」は、世の多くの男にこの事実をぶつけた。
 なお、竹内久美子によれば、ヒトの場合は、シンメトリー(左右対称)な体つきや指の長さがオスの遺伝子の強さを測るバロメーターらしい。睾丸の大きさがもてる男ともてない男を分けていると言っている人もいる。参考までに男性諸氏は自分の体が左右対称か、自分の指はすらりと長いか、自分の睾丸は人より大きいか、確かめてみて欲しい。さらに余談だが、睾丸の大きさはオスの浮気のバロメーター(睾丸の大きいオスほど浮気っぽい)にもなるらしいので、女性諸氏はそのあたりも覚えておくとけんかのもとになるので、やっぱり忘れてください。
 とにかく、もてる男になるためには強い精子が必要なのだ!
 ということで、いつものように長い前置きで飽き飽きさせてしまいましたが、自分の精子がどんなものかと見たい欲求にかられたので、見てみました。
今回使用したのは、精子が見える顕微鏡としていま話題沸騰中の「ココぴゅ!」。
ついに我が子と遭遇かと思い、封を開けた。
大切なところはモザイク処理しましたが、これが今回使用したiwaのスパームである。
ピンセットでつかみ、ほんの少しレンズにたらしてみました。
レンズを覗きます。一人で写真をとったので顔が汚いですね。
すると
 蛍光灯にレンズを当てると、小さいホコリのようなものがすばやく動いています。
 びゅんびゅん動いてます。
 まぎれもなく動いてます。
 感動です。
 ギャグのつもりでやったのですが、まじで感動してしまいました。
 南の島で鯨を発見した人と同じくらいの感動でした。
 だけど、感動の直後に落胆が胸を襲いました。
 この精子はすぐに死ぬんだよなあ。
 そう考えると、今度は悲しくなりました。
 自分の子供と遭遇し、自分の子供の死に接する。
 人としての最大の喜びと最大の悲しみを一度に味わったぼくは、レンズを吹き、複雑な気持ちでまぶしく光る蛍光灯を見つめました。
 しかし、ちょっと覗くだけでこれだけの感動を味わえるものはそうないでしょう。
 ぼくはこの顕微鏡で次は何を覗こうかとたくらんでいます。

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