アクエリアス 写真1 写真2 コカコーラ 写真3 写真4 写真5 サニー10 写真6 写真7 写真8 |
「十年前の缶ジュース」が見つかった。 年末のミレニアム大掃除で自宅の物置をあせったら、未開封の缶ジュースが出てきてしまったのだ。当然、賞味期限はとっくに切れてる。 十年前の缶ジュースを発見したとき、ぼくは大晦日に世紀をまたぎながら、このタイムカプセルばりに保管された缶ジュースを飲もうと思った。けど、飲めんかった。缶の錆を見ただけでプルトップを引けんかった。だって、まじで汚かったんだもん。 そこで、誰か代わりに飲んでくれないだろうかなあと思っていたところで、ぼくのところに「iwaさん、今度飲みに行きましょうよ」と言ってくる人がいた。kiri嬢だ。 なるほど、こいつは飲みたいんだなと思った。よし、じゃあ飲ませてあげようということで、今回 kiri嬢に十年前のジュースを飲ましてみました。 てっきり酒が飲めるとばかり思っていた kiriちゃんは、ぼくが錆だらけの缶を並べただけで顔がひきつっていた。 「こわいよ、このジュース」 「ばかやろう。これはジュースじゃなくて清涼飲料水と炭酸飲料だ。まあ、いい。とにかく空けろ」 kiriちゃんはこわごわと缶を開けた。まだ、この段階では顔が笑っている(写真1)。 「空けました」 「じゃあ、紙コップに注げ」 用意していた紙コップに、アクエリアスを注ぐ。製造年月日は89年の12月11日。まだ、平成元年だ。この年生まれた子供は、もう小学五年生である。それにしても、このアクエリアスの缶のデザインは懐かしいね。 「うわ、黄色い。アクエリアスレモンじゃねえの?」 kiriちゃんはコップの中のアクエリアスを見て言った。たしかに、普段飲むアクエリアスより黄ばんでいる気がする。 「それでどうするんですか?」 「飲むんだよ」 「誰が?」 「君が」 kiriちゃんは泣きそうな顔で紙コップを持っている(写真2)。 kiriちゃんはゆっくり鼻をコップに近づけた。 「あれ、後味が悪いけど、意外に普通」 そう、おもしろくないことに、意外に普通だったのである。kiriは、特別おもしろい顔もしないで、平成元年の冬の日に製造されたアクエリアスを飲んだ。 車でも平成元年式と言えば、かなり古い部類なのに。 次にチャレンジしたのが、さわやかコーク、コカコーラである。製造年月日は90年10月17日。平成元年のアクエリアスが飲めたんだから、平成二年のコーラも飲めるだろうと高をくくったkiriちゃんは笑顔で旧式のプルトップを引いた。あまりにも余裕のある笑顔がしゃくだったので、ぼくはその笑顔の写真を撮る気にならなかった(写真3)。 コーラは炭酸は抜けていたが、見るからに普通のコーラだったのもつまらなかった。 だが、油断こそが不幸のはじまりなんだよね。 kiriちゃんはコーラを一口とりあえずごっくんと飲むやいなや、顔色をがらりと変え(写真4)、服の中に蛙が入った女のように暴れ出した。 「まずいまずいまずいまずいまずいまずい」 それから壁に蛙のような格好でもたれると、二分ほど動かなかった(写真5)。 おもしろい顔と格好が撮れてぼくは満足だった。 こうじゃないとね! そして最後は、新品でもなんとなく怪しいサニー10というオレンジ果汁入り炭酸飲料である。製造年月日は90年の8月8日。みなさんはこの日、何をしていましたか? コーラでだいぶキレかけていたkiriちゃんは、ぼくが指示するより前にさっさと空けて紙コップに注ぎだした。 紙コップに注いだサニー10は、十年以上封印されていた気力を吐き出すように激しく泡出った。それは紙コップに入ったオレンジ色とあいまって、いささか尿検査をぼくらに想像させた(写真6)。 kiriちゃんは無言で飲み、無言になった。 かなり怒ってるみたいだ。 うー、これでは記事にならんではないかと思ったぼくは、したてに出て訊いてみた。 「お味のほうはいかがでした?」 「てめえが飲んで判断しろ!」 厳しい顔で一喝(写真7)。 というわけで、ぼくも飲んでみた。 臭いはそれほど変じゃなかった。オレンジジュースの甘い香りがちゃんとしていた。 が、口に入れると、鉄の錆びた味がオレンジジュースとあいまって、なぜかドブみたいな味がした。ドブを飲んだことはないが、子供の頃、ドブ川に落ちて身体中ドブ臭くなったときに感じる、あの臭さが口に広がるのだ。 結局、なんでも古くなるとドブ臭くなるのねと結論づけて、kiriちゃんを見たら、ぼくが飲んでいるのを冷静に見て悲しくなったのだろう。ほとんど泣きかけていた(写真8)。 というわけで、賞味期限切れの缶ジュースは飲もうと思えば飲めないことはないけれど、人間関係に亀裂が入るおそれがあるので飲まなくて済むなら飲まないほうがいいと思います。 ところで、缶が錆びついているこのジュースの環境ホルモンの数値はどのくらいなんだろう? |