バースデーテディの2が出てしまったらしい。
とぼくが言って、その言葉の意味を即座に理解できたあなたは、これから先のぼくの文章は読まなくてよろしい。こんな文章を読んでるヒマがあったら、気の利いたオシャレ雑誌でもぺらぺらめくってなさい。いま何をしていればみんなと同じかを考え、ふけば飛ぶように流行に流される人間になってしまいなさい。アラビアンスカーフを首に巻いて、ミニスカートの下にスパッツを履くような人間になってしまいなさい。流行モノを「流行っている」という理由だけで無批判に受け入れてしまうあなたたちみたいな輩に用はありません。
バースデーテデイとは明治製菓から発売されているチョコレート菓子である。箱を開けると、もうしわけ程度にチョコレートが入っていて、おまけとしてサイケデリックな、クスリをやっている人間がデザインしたとしか思えない、奇妙な柄の熊のぬいぐるみがついている。正確に言うと、この熊のぬいぐるみが人気なのだ。
昨年発売され、爆発的なヒット商品になった。なんでもこの奇妙な熊は一匹一匹誕生日が設定されているらしい。そして、この熊を買ってしまううすらバカな人たちは自分と同じ誕生日のテデイベアを持つとしあわせになれると信じているそうだ。まるで抜けた乳歯を屋根の上に投げれば無事に次の歯が生えてくる、というくらい信憑性のない迷信だが、女の子を中心にその迷信の信者は多い。発売された昨年の五月頃には、夜な夜な彼氏に「何がほしいんだ?」と訊かれ恥ずかしそうに「おちんちん」と答えているような若い女の子、がスーパーに山積みされているバースデーテディを血眼になって漁っている光景をよく目にした。
正式名称は「365日のテデイベア」。くわしくは、ここでもクリックしてくれ。
そのバースデーテディのパート2が出たのである。
あまりにも露骨な二匹目のどじょう作戦なので、どうせこけるだろうとぼくは期待した。一回目は、新しい感覚のおもちゃとして興味を持った女の子たちも、二回までも乗せられるほどバカじゃないだろうとぼくは信じた。たまごっちだって、初期型は新しい感覚のおもちゃとして大ブームになったが、それ以降は新型を発表するたびにあまっていたのだから。
しかし、そのぼくの予想に反して、昨年の暮れに発売されたパート2は、またもやバカみたいに売れている。二月に入り、ようやく落ち着いたが、ついこのあいだまでスーパーのお菓子売り場でワゴンに山と積まれたテディベアを、夜な夜な変態親父に「浣腸ほしいの」と言ってるような女の子までが血眼になって漁っていたのだ。そんなもの漁るひまがあったら、男でも漁らんかい! と怒鳴り散らしたくなる。
だいたい、どうしてこんなパンダの奇形みたいな熊を重宝しているのだろう。
何人かの女の子にそう尋ねると、さすがにまんまと乗せられているバカらしく、異口同音に同じことを言ってくれた。
「だって、かわいいじゃん」
ふーん。
男のぼくにこの感情はわからないので、つべこべ言うのはよしておく。かわいいのか。なるほど。
「あと、流行ってるし」
へー。
人間が何かを購買する場合において、この「流行っている」というのは、いい悪いを別にしてひとつの重要なキーワードである。このあいだ、メガネを買いに行ったら店員のおねーさんが、「こういうフレーム、最近わりと流行ってますよ」と言って、おすすめのフレームを紹介してくれた。店員が売り文句に使うほど、「流行」というのはキーワードなのだ。
「それと、自分と同じ誕生日や名前だったら親近感があるじゃん」
ほー。
さて、そういう心理を巧みについて、パート2を発売しても更に勢力を拡大しているバースデーテディだが、ぼくらがこの現象を見てすべきことはただひとつである。
おそらく、二匹目のどじょうがいたんだから、まだまだ柳の下にはどじょうがうようよいる。そのどじょうをつかまえるのだ。
女の子は言った。
「自分と同じ誕生日だったら親近感がある」
つまり、バースデイテディが洗脳してくれたおかげで、いまの若い女の子たちは、同じ誕生日に親近感を持ってくれるのである。
同じ誕生日の女を探せ!
きっと、同じ誕生日の子なら親近感を持ってやらせてくれるはずだ。あんな夜店のひよこみたいにキチガイじみた熊のぬいぐるみを、誕生日が同じというだけで後生大事そうに抱えている程度の女なんだから、そのくらいは簡単に進むだろう。
更に、その女と手を切りたくなったときのために、同じ誕生日の男も見つけておくのも大人の知恵かもしれない。パート2が出ればそれに飛びつくのだから、あっさり縁を切ることもできるだろう。
自分の誕生日が近い時期の免許の更新を見に行けば、同じ誕生日の同性も異性も簡単に見つかる。ぼくの誕生日は十月七日だ。免許更新は一か月前からだから、ぼくはいまから九月七日を首を長くして待っている。それまで、バースデーテディのブームが終わらないことを祈って。